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弊社の親会社である、日東紡績株式会社と千葉大学医学部附属病院(病院長:齋藤 康 以下千葉大学)は平成18年5月1日より3年間に渡り、「疾患プロテオミクス寄付研究部門」を設立しております。

このコーナーでは、本寄附研究部門の統括責任者である野村文夫教授に『臨床検査に向かう疾患プロテオミクス』との題で4回にわたり連載いただきます。

第1回 臨床検査に向かう疾患プロテオミクスその1

2007年10月01日

野村文夫 千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学教授
千葉大学医学部附属病院検査部長
千葉大学医学部附属病院疾患プロテオミクス寄付研究部門長

ポストゲノムあるいはポストシークエンス時代に入ると、先ずトランスクリプトーム解析が注目され、 DNAマイクロアレイなどによるmRNAの網羅的発現解析が盛んに行われてきた。しかし、 1)細胞内でのmRNA発現量と蛋白質の存在量とは必ずしも比例しないこと、 2)蛋白質の活性は細胞内での局在やプロセシング、翻訳後修飾などmRNAとは別のレベルで制御されていること、 3)低侵襲で得られる通常の臨床検体ではmRNAは解析対象となりくいこと、などの理由により、 発現しているすべての蛋白質を意味するプロテオームへの関心が高まってきた。 プロテオミクス研究はその解析技術の進歩と相俟って、近年急速な展開を見せ、臨床検査への応用も視野に入ってきている。 本稿では臨床検査からみた疾患プロテオミクスについて述べる。

1.臨床蛋白質検査の現状とdeep proteome

蛋白質を対象とする検査は病院の臨床検査室の主役である。千葉大学医学部附属病院検査部の生化学・免疫検査室では年間約360万件(延べ検査項目数)の検査を担当している。その測定対象は蛋白質のほか、含窒素化合物、脂質(コレステロールなど)、糖(血糖など)、電解質など多岐にわたるが、測定項目103 種類のうち、 解析対象が蛋白質である項目が79と圧倒的に多い。これらの蛋白質を対象とする検査において、従来から用いられている方法論とその代表的な測定項目を表1に列挙した。
これらの方法の中で、包括的な血清蛋白質解析のプロトタイプとも言えるのが、 セルロースアセテート膜を支持体とする電気泳動法である。 本方法は比較的多量に存在する蛋白質の濃度比を可視化したもので、これまで各種疾患の診断に貢献してきた。 図1に示したように典型例では各疾患に特徴的なパターンを示すが、早期診断には限界があり、同一検体を後に触れるSELDI-TOF MSで解析した場合との情報量の差は歴然としている。
事実、存在量が上位22蛋白質のいわゆるmajor proteinsの合計が全体の99%を占める図2。 1) 残りの1%はdeep proteomeとも呼ばれる。最近の報告2)ではこのdeep proteomeには少なくとも4500あまりの 蛋白質・ペプチドが含まれることが示されている。 この中にはまだ陽の目をみない未知の疾患マーカーが潜んでいる可能性が大きいと予想されていた。 しかし、SELDI-TOF MS、MALDI-TOF MSにより有用な疾患マーカー候補とされたピークの同定が進むにつれて その大部分がmajor proteinsの断片であることが判明し、3)deep proteomeの診断的意義に疑問符が付くに到った。 しかし、その後の知見によると既知蛋白質の断片であっても、そのin vivoあるいはex vivoでの産生が特定の病態を反映する 可能性が明らかにされ4)、fragmentomeあるいはdegradomeとしてその臨床的意義が再び注目されている。 なお、deep proteomeの解析にあたってはアルブミン、グロブリンなど大量に存在するタンパク群が解析の妨げになる。 これらのmajor proteinsを除去するための様々な試みがなされている。5),6)しかし、その除去に伴ってmajor proteinsと 結合しているペプチド類も同時に失われるという問題点もある。逆に、albuminomeと呼ばれるアルブミン結合ペプチドに 注目して研究をすすめているグループもある7)。

2.Proteomic differential displayの手法

Proteomeなる用語が正式の文献上はじめて登場したのは1995年のWasingerらの論文8)とされている。 同論文で用いられた二次元電気泳動法による分離技術と質量分析法によるタンパク質同定技術を組み合わせた手法は 現在もプロテオーム解析の基本である。近年の解析技術の進歩は、二次元電気泳動のメリットを生かしつつ 従来の方法を改良する方向と、二次元電気泳動法のデメリット、すなわち、再現性が悪く、操作が煩雑で、感度が低く、 低分子量蛋白の分析が困難という点を避ける脱二次元電気泳動の方向に大別される。 疾患プロテオミクス研究において多用されている代表的なproteomic differential displayの手法を表2に示した。 この中で、我々の研究室では現在、質量分析計をベースとする方法( SELDI-TOF MS, MALDI-TOF MS)および 2D-DIGEによる解析を行っているが、本稿では特に臨床検査への応用が期待されている前者を取り扱う。

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文献

  • 1. Tirumalai RS, et al: Mol Cell Proteomics (2002) 10:1096-11
  • 2. Shen Y, et al: Proteomics (2005)5:4034-4045
  • 3. Hortin GL : Clin Chem (2006) 52: 1223-1237
  • 4. Villanueva J, et al: J Clin Invest (2006) 116:271-284
  • 5. Pieper R, et al: Proteomics (2003) 3: 422-432
  • 6. Bjorhall K, et al: Proteomics (2005) 5: 307-317
  • 7. Lowenthal MS, et al: Clin Chem(2005) 51::1933-1945
  • 8. Wasinger VC, et al: Electrophoresis (1995)16:1090-1094