ニットーボーメディカル株式会社~検査現場から医療を支える~

トピックス

弊社の親会社である、日東紡績株式会社と千葉大学医学部附属病院(病院長:齋藤 康 以下千葉大学)は平成18年5月1日より3年間に渡り、「疾患プロテオミクス寄付研究部門」を設立しております。

このコーナーでは、本寄附研究部門の統括責任者である野村文夫教授に『臨床検査に向かう疾患プロテオミクス』との題で4回にわたり連載いただきます。

第2回 臨床検査に向かう疾患プロテオミクスその2

2008年1月28日

野村文夫 千葉大学大学院医学研究院分子病態解析学教授
千葉大学医学部附属病院検査部長
千葉大学医学部附属病院疾患プロテオミクス寄付研究部門長

3.SELDI-TOF MS(プロテインチップシステム)による新たな疾患マーカーの探索

プロテインチップシステムはプロテインチップ、質量分析計およびデータ解析コンピュータからなり、 アルミ板の表面に、様々な化学的(ケミカルチップ)、生物学的(バイオロジカルチップ)修飾を施し、 このチップに生体試料を添加した後、チップ表面に親和性のあるタンパク質のみを分離・捕捉し、選別された タンパク質群を質量分析計で測定し、分子量と発現量の情報を得るものである。

SELDI-TOF MSを利用するプロテインチップシステムは短時間に多数のサンプルの解析が可能であると同時に、 一枚のチップ上で、複数の異なる病態下の発現タンパク質量の比較を行うことができる画期的な方法であり、 卵巣癌9)、前立腺癌10)、膵癌11)、腎癌12)などの悪性腫瘍を対象として疾患特異的な血清タンパク・ペプチドフィンガープリント あるいは複数の特異的ピークが報告されている。我々の施設でも本システムを導入し、各種疾患のプロテオーム解析をおこなってきた。 以下に1つの応用例を示す。

(1)習慣飲酒を反映するマーカーの探索

アルコールによる臓器障害の診療の第一歩は正確な飲酒歴の聴取であるが、飲酒家の申告量はかならずしも正確でなく、 客観的なマーカーが求められる。13)習慣飲酒により変動することが知られている検査項目は多岐にわたるが、 わが国でもっとも広く利用されているγ-GTP(GGT)、近年欧米で多用されている糖鎖欠損トランスフェリン(CDT)の いずれにも、いわゆるnon-responderが存在することに加え、非アルコール性疾患でも異常値を示す場合がある。 すなわち、常習飲酒家のスクリーニングにおいて感度・特異度ともに満足すべきマーカーはなく、新たなテクノロジーを利用して 新規のマーカーを探索することが必要である。我々は表面増強レーザー脱離イオン化(SELDI)と飛行型質量分析計(TOF-MS)を 組み合わせたプロテインチップシステムを用いて新規アルコール関連マーカーの探索を行った。

断酒目的で専門施設に入院したアルコール依存症(DSMIV)患者計16名から得られた断酒後の時系列検体を用いて、 飲酒により増減する蛋白・ペプチドの網羅的解析を行った。14)その結果、飲酒に伴い血清における発現が変化する計5個の ピークを見出した。図3に特に際立った変化を示した二つのピーク、すなわち飲酒の影響が強く残っていると考えられる 入院時に減少していて、断酒に伴い増加が見られた 5.9kDおよび断酒後に有意に低下した28kDの経時的な動きを示した。 28kDは精製・同定の結果、飲酒との関連がすでによく知られていえるアポA1であった。 なおSELDI-TOF MSで得られた28kDのrelative intensityと免疫学的測定法により得られたアポA1レベルの定量値との間には 有意な相関が見られた。一方、5.9kDの変化は16例中13例で見られ、過量の飲酒があってもγ―GTPが上昇しない いわゆるノンリスポンダーにおいても認められたので、γ―GTPと相補的な新たな飲酒マーカーとなる可能性が期待された。 精製・同定の結果、fibrinogen αEchainのfragmentであった。そこで次のステップとして健診受診者を対象とした解析をおこなった。 15)男性健診受診者のうち常習飲酒家(日本酒換算毎日3合以上の飲酒)55名、飲酒習慣が全くない20名を対象として 上記5.9kDピークについてSELDI-TOF MSによる測定を行った結果、γ―GTPのノンリスポンダーもある程度拾い得る可能性が示され、 ROC分析でも確認された図4。現在より簡便な測定系の開発を日東紡績との産学連携で進め、近い将来、臨床検査としての受託を 目指している。

臨床検体に応用可能なハイスループットのproteomic differential display法の先駆けとしてSELDI-TOF MSが与えたインパクトは大きいが、 とくに3000Da以下のペプチドの正確な評価には難点があり、我々の施設ではBruker社のClinProtシステム(MALDI-TOF/TOF)を併用して 解析の幅を拡げ、SELDI-TOF MSで検出できなかった新たな飲酒マーカーを検出、同定することが可能となっている (特許出願済み。論文準備中)。現在はさらに解析手段を増やし、多戦略的に消化器系、泌尿器系、婦人科系の悪性腫瘍の 血清新規バイオマーカー探索に取り組んでいる図5

文章に戻る

文章に戻る

文章に戻る

文献

  • 9.Petricoin EF, et al: Lancet(2002) 359: 572-577
  • 10.Adam BL, et al?: Cancer Res (2002)62:3609-3614
  • 12.Won Y, et al: Proteomics(2003) 3:2310-2316
  • 13.野村文夫:モダンメディア (2001)47: 44-46
  • 14. Nomura F, et al. Proteomics (2004): 4:1187-94
  • 15.Sogawa K, et al: Alcoholism Clin Exp Res 2007(in press)